2020/09/28

あの人の言の葉 須賀 芳宗

 海軍大尉 須賀 芳宗

 神風特別攻撃隊 第一正気隊
 昭和20年4月28日
 沖縄沖にて戦死
 東京都台東区出身 26歳


 昨日、今日と隊の桜も満開です。
 この桜ほど美しい桜を私は未だ見た事がありません。
 きっとこれも見る者の心のせいでしょう。

 皆さんの去った隊内にこの綺麗な桜に囲まれていささか感傷に溺れました。
 それは決して淋しい物悲しいホームシックではないことは断言できます。
 恵まれた両親にかこまれて温かい家庭に幸福に溢れて育った小生が学生時代から愛し続けて来た飛行機で勇躍征途にのぼる、実に恵まれた生涯であったと痛感したのです。

 豊かに真直ぐに育ったと云う事は今となって最大の強味です。
 実にその点両親に感謝しています。
 坊ちゃん育ちは弱味も多くありましょうが、根本に於いてどんな状態に置かれても必ず物を素直に受け入れて好意に解釈します。

 今、日本を守る最後の切り札として出陣するに当たって、日本人として御両親様の倅として誰よりも誇りと喜びとを以て出撃出来る事は私の最高の勝利であると微笑んでいます。

 桜が散ったら又お便りします。

2020/09/21

あの人の言の葉 植村 真久

 海軍大尉 植村 真久

 神風特別攻撃隊 大和隊
 昭和19年10月26日
 フィリピン沖にて戦死
 東京都出身 25歳

 愛児に宛てた手紙


 素子、素子は私の顔をよく見て笑いましたよ。
 私の腕の中で眠りもしたし、またお風呂に入ったこともありました。
 素子が大きくなって私のことが知りたい時は、お前のお母さん、佳代伯母様に私の事をよくお聴きなさい。

 私の写真帳もお前の為に家に残してあります。
 素子という名前は私がつけたのです。
 素直な、心の優しい、思いやりの深い人になるようにと思って、お父様が考えたのです。

 私は、お前が大きくなって、立派な花嫁さんになって、幸せになったのを見届けたいのですが、もしお前が私を見知らぬまま死んでしまっても決して悲しんではなりません。

 お前が大きくなって、父に会いたい時は九段へいらっしゃい。
 そして心に深く念じれば、必ずお父様のお顔がお前の心の中に浮かびますよ。

 父はお前が幸福ものと思います。
 生まれながらにして父に生きうつしだし、他の人々も素子ちゃんを見ると真久さんに会っている様な気がするとよくおっしゃっていた。
 またお前の伯父様、伯母様は、お前を唯一の希望にしてお前を可愛がって下さるし、お母さんもまた、御自分の全生涯をかけて唯々素子の幸福をのみ念じて生き抜いて下さるのです。

 必ず私に万一のことがあっても親なし児などと思ってはなりません。
 父は常に素子の身辺を護って居ります。
 優しくて人に可愛がられる人になって下さい。

 お前が大きくなって私の事を考え始めた時に、この便りを読んで貰いなさい。

 昭和十九年○月吉日

 植村素子へ
 追伸、素子が生まれた時おもちゃにしていた人形は、お父さんが頂いて自分の飛行機にお守りにして居ります。
 だから素子はお父さんと一緒にいたわけです。
 素子が知らずにいると困りますから教えてあげます。