2021/03/29

あの人の言の葉 高瀬 丁

 海軍少尉 高瀬 丁

 神風特別攻撃隊 神雷部隊 第九建武隊
 昭和20年4月29日
 沖縄本島東方海上にて戦死
 北海道釧路市城山町出身 20歳


 御恵み深き父母上様、聖戦に参加せんとして愛機に搭乗する前に書します。
 この世に生を享けて拾幾星霜、夏の日も冬の日も慈しみ励まし日本男児にお育て下さいました。

 父母上様、何一つとして御恩に報いませんでしたが、大日本帝国軍人として大君に命を捧げて皇国のため散って逝く、私を孝行者と言って下さい。

 決してお嘆き下さいますな。
 私は幸福でした。

 私は最後の最後まで御教訓に背きませんでした。
 そして晴々とした気持ちで祖先の御前に行けます。
 ただ一つ残念なのは御高恩に報いられなかった事のみです。

 父母上様、父母上様よ、お姿を心に秘め御名を心で叫びながら散ります。
 父母上様さようなら、さようなら。

 父母上様へ
 二伸
 一、吾に金銭貸借なし
 一、吾に婦女子関係なし
 一、吾に罪なし

2021/03/12

あの人の言の葉 佐藤 源治

 陸軍曹長 佐藤 源治

 昭和23年9月22日
 ジャカルタにて法務死
 岩手県出身 32歳


 僕は唱歌が下手でした

 僕は唱歌が下手でした
 通信簿の乙一つ
 いまいましさに 人知れず
 お稽古すると 母さんが
 優しく教えてくれました

 きょうだいみんな 下手でした
 僕も 弟も 妹も
 唱歌の時間は 泣きながら
 歌へば皆も 先生も
 笑って「止め」と言いました

 故郷を出てから十二年
 冷たい風の 獄の窓
 虫の音聞いて 月を見て
 母さん恋しと 歌ったら
 皆が 泣いて 聞きました

 僕のこの歌 聞いたなら
 頬すり寄せて 抱き寄せて
 「上手になった良い子だ」と
 ほめて下さる ことでしょう