2021/04/30

あの人の言の葉 酒井 隆

 陸軍中将 酒井 隆

 昭和21年9月13日
 南京にて法務死
 東京都港区南青山出身 59歳


 ラジオでおききでしょうが、戦犯として今日決定します。
 これによって中、日がまことの道を歩くこととなり、日本を侵略と言わないですむ道になれば、私の本願です。

 好きな中国で死んで、私は喜んで逝きます。

 子供達の教育の金もないかと案じます。
 インフレの中に何もかも妻に一任して私はこんな所で死ぬ、まことに申し訳ありません。

 遺骨があればその一部を分骨して原村の父母の山林か墓前のところに土饅頭でもこしらえてお埋め下さい。
 墓石なんかいらぬ。

 あと二、三日の死を待つのも仕方ない。
 いやなものだ。
 静かに故人の幾人かが遭遇した天命をたどるのだ。
 所見も感想もなるべく考えない。書くまい。
 手近の人々を考えるよりか、本を読み、歴史を読み、おもむろに人生を去る。
 その時まで勉強するのだ。
 洗濯をし、着物も整理する。

 もう二度と行けないと思うと残り惜しいが、死ねば心はすぐ日本へかえる。
 いつでも刑にかけてと祈る。
 何時までも牢屋に生きるよりか、放たれた日本の空に、我は祖国の礎となる。

 大好きな日本。
 私は空飛ぶ姿でかえる。

2021/04/14

あの人の言の葉 加藤 虎男

 陸軍少尉 加藤 虎男

 昭和20年5月4日
 沖縄方面にて戦死
 東京都目黒区駒場出身 20歳


 お母さん
 大元気で、でっかい奴を沈めます。

 御祖母様
 お元気にお暮らし下さい。
 小学校に通って居た頃、滑り台より落ちて祖母さまに手当てして頂いた事を思い出しました。
 虎男は立派に働いて死にます。

 功兄、麗子へ
 元気で暮らして下さい。
 必ず命中します。
 自分の居なくなった後は、兄さんと麗子だけがお母さんの世話が出来るのだ。
 麗子、お母さんには心配を掛けるなよ。

 何を惜しまん 君が御楯となれる我は
 五尺の身 粉々になるとも

 第一〇九振武隊 加藤虎男